「今は泥舟だが、時代に合わせてトランスフォームしていきたい」 【2023−2024濱口竜介監督×元町映画館、年末恒例茶飲みトーク後編】


後半は、元町映画館の現状と2024年取り組みたいことについてを中心に、『ハッピーアワー』の女性の描き方について、改めて語り合った。


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■映画館は「沈没しかけている」。現在進行中のプロジェクトとは?

――――今年は年末の『ハッピーアワー』以外であまりミニシアターを巡る機会がなかったのではと思いますが、ようやくコロナ明けとなった2023年ミニシアターの状況をどうご覧になっていましたか?

濱口:コミュニティシネマセンターとaction4cinemaが調査主体となった「映画館の経営状況と今後についてのアンケート」が公開されましたし、ミニシアターのクラウドファンディングの告知が多く見られるようになり、いろいろなターニングポイントに来ていると感じます。もちろん、コロナ後いくつかのターニングポイントはあったと思いますが、特にそれが顕在化した一年だったという印象を受けました。どうするかの選択や決断を迫られているし、その中でも新しい動きが始まっている感じではないかと。実際はどうですか?


石田:もう沈没しかかってます(笑)。クラウドファンディングの告知が多くのミニシアターから出ていますが、元町映画館もクラウドファンディング とはまた違う形で、寄付を募る必要があるのではと話し合いや、運営の整備を進めているところです。


江口:クラウドファンディングは、デジタル機材の入れ替えとか、設備の修繕など、ある程度目標があるものに対して行うものですが、それよりもまず日常的な運営が継続できるように支援していただくことに重きを置き、サポーターズクラブの立ち上げを考えているところなんです。


高橋:先ほど濱口さんが挙げておられた「映画館の経営状況と今後についてのアンケート」で、1年以内に閉館を考えている映画館は9館と結果が報告されていますが、その中の1館は元町映画館なんです。わたしが「YES」と回答しました。今の売り上げが続くと、1年後には閉館の可能性がある。もし景気が上向き、有料動員数が増加していけば、続けて経営していけます。ただ、コロナ禍と同じような有料動員数が低迷した状態が2年続いた後、そこから浮上せずに3年目も続いているわけですから、2度あることは3度あると見ざるをえない。


濱口:2023年度の有料動員数はどれぐらいになりそうですか?


高橋:2万5000人に届かないかもしれません。ただ1月にはアキ・カウリスマキの『枯れ葉』を上映するので、それが健闘してくれれば昨年並みの動員数は維持できるかもしれません。


濱口:それこそ、スタジオジブリがミニシアターでしか作品を上映しないとか…。(一同笑)


林:映画界を救うってそういうことだと思うんですよ。持てる者が業界を回すことを考えてくれたらいいのにと。


高橋: 1日14人の有料観客数増という数字は、シネコンだと大した数字ではないと思いますが、ミニシアターにとっては命綱になるんです。


石田:ミニシアター・エイド基金のとき、未来チケットを取りに来なかった方がとても多かったんです。遠方に住みながら元町映画館を支援してくださる方が顕在化したので、その層にもアプローチできる形の継続的な寄付を、サポーターズクラブで考えています。

濱口:それは大事ですね。自分も、映画館をよりメリット多く利用するための制度じゃなくって、そこに価値があると感じて支える人がもっと寄り集まれる制度があったほうがいいな、というのはミニシアター・エイドのときに感じていました。そのサポーターズクラブはある種のサブスク、つまり映画館サブスクでもある。


林:濱口さんの写真を撮らせていただいて、「わたしも(寄付を)やってます!」みたいな感じで公式サイトに掲載させてもらうとか(笑)


濱口:やりましょう!


高橋:告知の時点で、どの程度「助けて!」と言うかは難しいところではありますね。


林:助けてくださいと伝えるのと同時に、支援いただく方も参加したいと思えるような、そのバランスが大事ですね。あとは周知だと思います。


石田:濱口さんに公式アンバサダーになっていただいて(笑)


濱口:名称はさておき、お手伝いできることがあれば何でも。


林:映画制作者にとっては、劇場がなければ作った作品をかける場所がないわけですから。


濱口:そうですよ。しかも年末に『ハッピーアワー』を上映してもらえなくなってしまう。同窓会の機会がなくなってしまいます(笑)。


林:今日、入場できずに帰られた方もたくさんいらっしゃったので、2024年末にまた上映して観に来ていただけるようにしないと!年々思うことですが、若い観客が増えている気がします。


石田:ここ2〜3年若い観客が増えていますね。若い人の動き方も変わってきているので、その影響もあると思いますが。


濱口:配信していないことも劇場に足を運ぶ一因かもしれません。若年層が配信していないからと6000円ぐらいもするブルーレイを買うとは思えないですし。配信をやっていることが、観客の鑑賞欲を単に刈り取るだけではだめで、いかに観客を育てるような種蒔きをできるか。それをきちんと考えないと、このままでは難しい状況ですね。



■『ハッピーアワー』の女性の描き方は、時代を先取りしていた

高橋:この夏、ジョン・カサヴェテスの『ハズバンズ』を上映しましたが、ハズバンズ(夫)たちの、今ならアウトだと思うような言動の数々が、『ハッピーアワー』の妻たちの裏返しのようでもあり、濱口さんがなんども『ハズバンズ』をご覧になったというのも納得しました。ぜひ、並べて上映したいぐらいです。


濱口:どちらも長いので、両方で8時間ぐらいになりますね(笑)そのことで見えてくるものもあるかも知れないし、観客の反応が気になりますね。『ハズバンズ』は公開当時から観客が出ていったりしていたし、今も拒絶反応を覚える人が多いでしょう。『ハッピーアワー』もそろそろ10年が経ちますから、今ご覧になった皆さんにどう思われるのかなと。


江口:スケジュールチラシインタビューの際に、川村りらさんは、時代によって受け取られ方が変わることをポジティブに楽しみだとおっしゃっていました。


高橋:『ハッピーアワー』は2015年の作品ですが、その段階で女性の描き方という点では先を行っていたと思うんです。


林:確かに、#Me Tooや第4波フェミニズム前夜で、男性に対する女性の違和感をきっちりと描いている。元町映画館のスタッフ内でも、男性はなぜ劇中の男性たちが妻たちに攻撃されているのかわからないと言っていて。私から見ると登場する男性はクソしかいないのですが、男女の感想の違いも露わになり、面白かったですね。それが2015年に誕生したわけですから、やはり早い!わざと男をクソっぽく描いているのかと思うぐらいだったのですが、男性スタッフには女性たちが自分勝手だと見えていた。そこまで違うのかと本当にびっくりしました。そんなに違いがあることですら、それまではわからなかったので。


高橋:脚本家が3人とも男性なのに、この脚本が書けたということも素晴らしい。


濱口:たくさんキャストのみなさんから話を聞いたというのも大きかったと思います。男性を貶めようとしたわけではまったくないけれど、男性がふつうだと思って行動したら、ふつうに女性からこういうリアクションを受けますよと。その連鎖の話なんです。


林:男性の無意識にやっている行動が女性たちを追い詰めていることに、誰も気づいていなかったんですね。



■時代に負けないように変化が求められる1年

―――ありがとうございました。最後に、2024年の濱口さんの抱負をお聞かせいただけますか。

濱口:ちゃんと、いろいろ考えたい。行動しなければ始まらない、けれど、その前提として考えてから動きたい。2023年は考える時間もないことはなかったのですが、ミニシアターを取り巻く環境もしかり、社会自体もものすごいスピードで変わっているので。そこで、単純にそのスピードを追いかけると疲弊して、続けられなくなってしまう。時代に負けないように、もうちょっと根本的にいろいろと考えなければという想いはあります。


石田:そうですね。ミニシアターが今後生き残っていくためには、時代に負けないようにしないと。時代の流れにはある程度逆らえないところはあるので、どのように共存していくのか。うまく時代の流れに沿いながら、ミニシアターをどう変えていけるか。映画を上映しているだけでは無理な状態まで来ていますから、これから何をしていくのかが求められていると思います。映画だけに固執していては、沈んでいくだけ。泥舟から脱するにはどうすればいいかは、結構考えますね。


林:シネコンは身体が大きすぎて変えることができないことでも、ミニシアターは小規模だからこそ変化しやすいはずなんです。


濱口:製作の面でもきっとそうですし、本気で変えることを考えるなら、実はすごく小さいところからしか始められないと思います。


石田:小さいところからトランスフォームしていきましょう!今までは元町映画館コロナ禍の姿でしたが、時代に合わせてどんどん変わっていきたいですね。

(江口由美)