「色んな作品を観て、常識を疑っていきたい」8/23学生がミニシアターにできること|梁瀬萌乃花/東真優/大矢哲紀


 書籍「元町映画館ものがたり」刊行記念RYUSUKE HAMAGUCHI 2008-2010 Works PASSION/THE DEPTHSと題して8月21日より1週間に渡って開催した上映&トークセッション。

 3日目は『PASSION』上映後に映画チア部OBでフリーライターの大矢哲紀が司会を務め、現部員の東真優と梁瀬萌乃花が登壇。これまでの映画チア部の活動を振り返りながら、学生がミニシアターにできることをテーマにトークを行った。



「”本音”を言うと初司会で緊張していますが、現メンバーに”質問”する形で進めていきます」と劇中の”本音ゲーム”を踏まえた大矢の発言で始まった今回のトーク。作品の感想について、東は「会話量が多く、人物関係を整理したうえで改めて鑑賞したい」、梁瀬は「2度目の鑑賞で“暴力”というテーマに気づいた」と語り、作品の余韻に浸りつつも本題のトークへ移ることになった。


■映画チア部とは?


映画チア部とは、元町映画館を拠点に関西のミニシアターの魅力を伝えるための団体だと梁瀬は語る。

2015年、映画館スタッフの提案からtwitter上で呼びかけられた学生たち(現在、元町映画館のスタッフとして働く石田涼もその1人)が発端となり、映画チア部は結成。今年で6年目を迎えることになった。当初は元町映画館の上映作品を中心にイベントを企画していたが、近隣のミニシアター(パルシネマしんこうえん、CinemaKOBEなど)も巻き込んでイベントを開催するなど、年々、規模は拡大。2018年には、シネ・ヌーヴォを拠点とする大阪支部、出町座を拠点とする京都支部も発足し、その活動の幅は広がっている。


■映画チア部のこれまでの活動


映画チア部のこれまでの活動を振り返るにあたり、まずはOBの大矢が”チアシアター”について紹介した。上映時間が短く、通常営業では難しい短編などを2階のスペースで上映。コロナ禍の影響でオンライン開催が行われたのち、ここ1年ほど休止していたイベントだが、トークの1週間後(8/28)には、神戸アートビレッジセンターで第7回が行われることを告知した。



続いて、大矢はパルシネマしんこうえんでのオールナイト上映を紹介。作品選びから会場装飾まで、計15回以上に渡って開催されてきたイベントを振り返り、チラシを一覧にしたスライドには感慨もひとしお。東は初めて参加した当時を思い出し、「等身大の人形を作っていたのが印象に残った」と、イベント当日に行う装飾物作りの楽しさを語っていた。ちなみに、過去には廃校で「一夜限りの青春ナイト!~ルーティンな毎日から抜け出せ~」も開催されており、大矢はこのイベントが入部のきっかけになったのだという。



シネマツーリングは、ミニシアターに足を運ぶのが難しい学生に向けて、皆で映画鑑賞することをイベント化した試み。これまでは鑑賞後に部員や映画関係者と感想を話し合う形で行っていたが、近年は参加者が低迷。コロナの影響もあったため、ここ数年は休止していたが、現部員は、その復活を進めているのだという。



今年から始まったYouTubeLiveを用いたラジオ番組「ホンネでシネマ」は、「人と会えない時代に映画のコミュニケーションを深めようと開始された企画」と東が語る。映画チア部神戸本部の代表・五味健太郎が発案し、すでに計6回が放送された。梁瀬いわく、「一人鑑賞で消化不良のまま、SNSに感想を投稿する現部員にとっては、感想共有の場にもなっている」という。放送中にはリスナーからのコメントにも答えているほか、メンバーの感想が正反対になることもあるといい、映画チア部の中でもトークをすることで様々な発見があるようだ。



卒業企画「24時間映画耐久レース」は、この春に引退した前代表・高橋佳乃子による持ち込み企画。かねてより”ル・マン24時間レース”(フランスで行われる四輪耐久レース)のファンだった高橋は、その映画鑑賞バージョンを思いつき、後輩メンバーが具現化する形で、YouTubeLiveでの配信が実現した。実際に参加した大矢は「途中から意識が朦朧とし、映画を過剰に摂取するのは良くないと分かった」と、当時の経験が、若干のトラウマになっていることを明かした。



また、映画チア部では結成当初から関係者への取材も行っている。近年では、より一層、その活動に力を入れており、『すくってごらん』の真壁幸紀監督にインタビューを行った際には予想を超えるリアクションがあった。3記事に渡って掲載したロングインタビューでは団体twitterでは過去最高となる233いいねを獲得し、「1時間程のインタビューをしても監督の思いを削ることは出来ず、分けて書くことにしました」と、梁瀬は記事へのこだわりを振り返った。



映画を取り巻く形で様々な試みを行ってきた映画チア部だが、2019年には短編映画制作にも挑戦している。それが『KOBE OF THE DEAD』の制作である。当時、初開催となった”神戸インディペンデント映画祭”の開幕に合わせ、映画チア部の企画として上映することになった本作。大学の映画研究部で自主映画の制作経験があった大矢が監督となり、上野伸弥、津田晴香を含む、約30名ほどのキャスト・スタッフと共に10分程度の作品を制作した。この経験を糧に、コロナ禍には『アワータイム』、『アワーアンビション』という2つのリモート映画も制作。今回のトークイベントの最中には、大矢が「『KOBE OF THE DEAD』をトークの後にYouTubeで公開します!」と電撃発表する一幕もあり、会場を沸かせた。



直近では次世代映画ショーケースの舞台挨拶に登壇し、同世代の女性監督・山中瑶子さん(『あみこ』、『魚座どうし』)とのトークを行ったり、ラジオ出演を果たすなど、その活動が多岐に渡っている映画チア部。東は「貴重な経験が出来たので入部して良かったです」と素直な感想をこぼしつつ、ここ数か月で相次いだラジオの出演には「何を話すか考えていても、柔軟な受け答えが求められる現場は緊張します」と苦労も語る。そんな感想を受け、梁瀬は「プロと話すのは難しいですよね。内輪でやっていると楽しいだけなんですけど」とボソッと呟き、真理を突くようなコメントには客席から笑いが起きていた。


■最新の活動

最新の活動では、”怪奇と狂気の無声ホラー”と”ポップでビターなシンセダイ(チアシアターvol.7)”という2つの上映イベントと、映画『僕とオトウト』についての関わりなど、現役メンバーからの報告があった。



”怪奇と狂気の無声ホラー”は、映画チア部がパルシネマしんこうえんで行った初の無声映画上映会。活動写真弁士の大森くみこ、サイレント映画専門楽士・鳥飼りょうを招いた当イベントでは、直前に発表されたまん延防止等重点措置の影響もあり、当初のスケジュールから大幅な変更を加えたそう。当日、OBの高橋と観客として参加した大矢は、万全の感染対策と堂々としたMCに感動したという。

鳥飼さんによる厳しい指導の噂について尋ねられた梁瀬は「当初の企画書が穴だらけの内容でコテンパンに言われてしまいました」と、アドバイスを受けて最初から最後まで内容を書き直したことを振り返る。とはいえ、イベント開催への意欲を尊重してくれた鳥飼さんには、本当に感謝しているのだという。



「これ、言っちゃっていいのかな」と戸惑いつつも、直前には開催延期の可能性があったことも明かした梁瀬。さまざまなケースを想定して、ギリギリまで感染対策のアイデアを考え、念願の"13日の金曜日"にイベントを開催できたことは、メンバーにとって大きな自信となったことだろう。また、今回は実現できなかった活弁上映(サイレント映画に活動写真弁士の解説と音楽を加えた上映形式)と無声上映(演奏のみの上映方式)の2本立てに関しても、今後は挑戦していきたいと熱い思いを語った。



ポップでビターなシンセダイ(チアシアターvol.7)は、メンバーが『愛しのダディー殺害計画』に惚れ込んだことで立ち上がった企画。2018年以降、映画チア部はMOOSIC LABの審査も担当しているが、今年度には招待作品として本作が選ばれていた。その際、梁瀬が「こんなにポップで毒々しい作品があるのか」と驚いたことを機に、今回の上映会へと繋がったのだという。配給を担当するイハフィルムズ(『ある殺人、落葉のころに』『映画:フィッシュマンズ』など)に連絡したところ、『街の上で』のプロデューサーでもあった髭野純がイベントを快諾。短編映画ゆえに時間の調整をしていたところ、元町映画館スタッフの石田涼が激推ししていた『旅愁』の上映も可能だと分かり、2本立てにすることを決めた。また、今回は中国に住む呉沁遥監督とのリモート登壇も企画。海外と会場を繋ぐ取り組みはチアシアター初の試みとなり、今後もイベントの可能性は大きく広がっていきそうだ。



続いて、『僕とオトウト』の上映委員会に携わる活動が紹介された。2017年、元町映画館で開講されたワークショップ”池谷薫 ドキュメンタリー塾”から生まれた映像団体・元町プロダクション。そのメンバーである髙木佑透監督が手がけた約40分の作品『僕とオトウト』が、まもなく関西のミニシアターを中心に公開される。上映委員会には映画チア部を代表して五味が参加。ミーティングなどを通して、上映前に開催するイベントについての企画が進んでいるとのことで、五味は「短い作品ながらも、すごく良いドキュメンタリー」と映画の魅力を猛プッシュした。



■思い出深かった出来事

次にトークは各メンバーの思い出深かったイベントへと移った。“怪奇と狂気の無声ホラー”を挙げた東は、入部から1年でイベントの主体になるとは思っておらず、かなり苦労をしたと語る。コロナ禍で現地イベントの開催も少なかったため、当日まで探り探りだったという東。しかし、鳥飼さんや大森さん、メンバーの支えなどもあり、イベント終了後に味わった安堵感と達成感は忘れられない思い出になった。若い人にとって馴染みづらい無声映画の上映会ながら、カップルや若い人に来てもらえたのも嬉しかったのだという。


    

一方、梁瀬は”24時間映画耐久レース”を挙げた。もともとは、参加者の2名が映画鑑賞をする姿をひたすら生中継する予定だったが、絵面が地味なため、後輩メンバーも副音声という形で参加することに。コミュニケーションをとりつつ、24時間起きていたことでメンバー間でも友情が深まったのだという。ちなみに、鑑賞作品は各メンバーと元町映画館スタッフのオススメとなっており、梁瀬は自身のセレクトである万田邦敏監督の『接吻』を高橋に気に入ってもらえたことが嬉しかったと、当時の様子を振り返った。

大矢は、映画制作の経験について「色んな人たちを巻き込んで制作が出来たことは自分の中の大きな財産」と語った。「新作は作らないんですか」という梁瀬の質問には「検討中です」と返し、現在も構想段階の企画があることは明かしていた。


■失敗した出来事


失敗した出来事の話題で、梁瀬は”京都フィルメックス2021”のトークイベントを振り返った。映画監督の万田邦敏、俳優で映画監督の齊藤工とZoomを介して登壇したイベントは満席となり、憧れの齊藤とのトークに梁瀬は極度の緊張状態に陥ったとのこと。zoomを通して、斜めの角度でしゃべる齊藤に「自分がカッコいい角度分かってるやつやん」と心の中でツッコみを入れながらも、彼の素晴らしいコメントを聞き、次第に自分が会話をしていることが信じられなくなったそう。MCをしている事実に対し、ファンに申し訳ない気持ちが募った彼女は、イベント終了後、ファンに叩かれていないかを必死にエゴサーチしたといい、それ以降、若干のMC恐怖症になってしまったことを明かす。

そのエピソードを聞き、東も自身がMC恐怖症になったエピソードを振り返る。宮崎大祐監督の『VIDEOPHOBIA』でMCに挑戦した東は、緊張から会話が一問一答のようになってしまったことを語った。イベント後、映画館スタッフからも「バサバサ切ってたねぇ~」と冗談交じりにアドバイスをいただいたことにも触れ、その反省を次に活かしていきたいのだという。

コロナ禍にオンライン上映会を行った大矢は、動画のアップロードトラブルについて語る。当日の直前に動画の不具合が起き、参加者に不安を与えてしまったことを反省しつつも、何とかイベントを終えることが出来たのは本当に良かったという。


■映画チア部のこれから


東は「映画関係のプロと話したり、お客さんの反応をもらえるのが嬉しい」と過去の活動を振り返りながら、これからの目標については「短編映画の特集上映や、無声映画の上映にも力を入れていきたい」と語る。

一方、間もなくチェコ留学を控える梁瀬は「映画チア部チェコ支部を作ります!」と冗談交じりに宣言。大矢にツッコまれながらも「Ayumi!(イラストレーター)さんがイラストを書くイベントで勇気を振り絞り、2階に足を踏み込んだことが今の自分に繋がっている」と言及。当時を思い出しつつ、「中高生が気軽に参加できるイベントも企画していきたい」と、自身の経験を踏まえた熱い思いを語った。「2階のロビーは出会いの場。通常の映画館は受け身になりやすいけれど、元町映画館では、事務所のスタッフに助けてもらったり、色んな人を紹介してもらったり、ロビーが特別な場所になっている」と、今後は2階でのイベントも再開したいという気持ちを明かした。

そんな意見に「映画チア部でイベントをすれば、出会いも生まれる。そういう活動を増やすことが大切」と語る大矢は、OBの間で映画チア部の発展形となる団体の結成が進行中だと語る。近年は関西の映画宣伝会社が撤退し、業界そのものが関東中心になっている現状があると言われている。そんな傾向に風穴を開ける新たなムーブメントも構想しているようだ。


■質問コーナー


イベントの最後に行われた質問コーナーでは、江口由美(「元町映画館ものがたり」責任編集者)から「中高生が元町映画館に行くためのアイデアはありますか?」という質問が。

先日の何気ないtweetでAyumi!さんがイラストを書いた当時のことを覚えていると知った梁瀬は「Ayumi!さんと何かしらのイベントをしたい」と今後の夢を語る。彼女は先日の件を経て、当時のイラストを額縁に入れて今後も飾り続けようと決意したのだとか。

一方、東は「シネマツーリングのように、映画チア部からミニシアターに行くきっかけを作りたい」と語った。

お客様から「”24時間映画耐久レース”で24時間を迎えた時の映画はなんだったんですか?」と尋ねられた大矢は、「結局、16時間ぐらいが限界だったんですけど……」と前置きしつつ、「『シザーハンズ』でしたね」と答え、場内には笑いが起きた。元町映画館スタッフのセレクトとなった後半の作品がハードだったと語り、「おすすめはしないですが、ぜひ、挑戦してみてください」と質問者にもチャレンジを促した。

(ちなみに、イベント当時のラインナップは以下の通り。『ディセンダント』→『リベリオン』→『ラストベガス』→『どですかでん』→『真夜中のパリでヒャッハー』→『接吻』→『レクイエム・フォー・ドリーム』→『ドレミファ娘の血は騒ぐ』→『シザーハンズ』)

続いて、元町映画館の発起人でもある堀忠からの「2階の階段は、どうすれば入りやすくなるでしょう」という意外すぎる質問にも客席から笑いが。「逆に暗闇を活かして宇宙みたいにしちゃう」という東のアイデアや「電飾をつけてテーマパークのようにする」などの斬新な意見が出たが、これは今後のチア部に託された大きな課題になるのかも……。「建築科の学生などにも、ぜひ、意見をもらいたい」という堀のコメントを受け、今後の映画チア部が、この問題をどう解決していくのかにも注目だ。

最後には、現在公開中の『まっぱだか』の片山享監督からも質問があった。トークイベントのタイトルに合わせ、「自分がミニシアターに出来ることは何だと思いますか?こうなってほしいという具体的なイメージはありますか?」という質問を受け、東が「動画配信サービスが主流となり、映画との距離は近くなったけれど、映画館への距離は遠くなった」という現状に触れつつ、「映画館は大きなハードルだけれど、感動を共有出来たり、出会いの場となれば良いな」という願望を語った。



一方、梁瀬は、元町映画館で常に色んな映画が上映されていることに触れ、「年を取れば取るほど、常識は疑えなくなってしまう。だからこそ、今のあいだに色んな作品を観て、常識を疑っていきたい。若者にそんな場を提供できたら」と語った。


■終わりに

大盛況のうちに幕を閉じた3日目のトークイベント。今回、MCを担当することになった筆者としては「濱口竜介監督の大傑作の後に映画チア部でトークをしてしまったら、余韻を妨げてしまうのでは……」という不安があったのも事実。しかし、参加していただいた知人からは「大人になってからは言えないような、学生だからこそ言える”本音”が飛び交うトークでこちら側も刺激を受けた」という嬉しいお言葉が。これこそ、思わぬ”本音”が次々に飛び出す映画『PASSION』の魔力なのか……どうかは分からないが、なにはともあれ、質の濃い1時間になったのではないだろうか。ぜひ、このトークで団体に興味を持っていただけた方は、「映画チア部」で検索。そして、「元町映画館ものがたり」を購入していただきたい。

(大矢哲紀)


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