「無声映画は子どもが観るべき!」8/24「映画館」はまだまだ面白くなれる|鳥飼りょう/森本アリ


  書籍「元町映画館ものがたり」刊行記念RYUSUKE HAMAGUCHI 2008-2010 Works PASSION/THE DEPTHSと題して8月21日より1週間に渡って開催した上映&トークセッション。

 4日目は『THE DEPTHS』上映後、元町映画館の「SILENT FILM LIVE」でお馴染みのサイレント映画楽士、鳥飼りょうさんと、旧グッゲンハイム邸管理人で音楽家の森本アリ さんをお迎えした。題して、「映画館」はまだまだ面白くなれる。旧グッゲンハイム邸や元町映画館、小学校での取り組みの紹介や、今後への期待について、支配人の林さんと江口が聞き手となり、語り合った。



■無声映画を浴びるように観たベルギーの学生時代

 最初に元町映画館で昨年開催した「スター千三夜」や、やはり元町映画館で行われた、町対抗の写真で大喜利イベント「ちいきいと」の映画館にテーマをしぼった回、を紹介してくれた森本アリさん。旧グッゲンハイム邸で無声映画の伴奏付き上映をはじめるに至ったバックボーンとして、ベルギーに滞在していた20歳の頃のことを振り返り、

「ベルギーの映画博物館では、連日無声映画が1日3本上映され、アップライトピアノがあり、日替わりの楽士がいました。プログラムから選んで観たい映画を予約すると、当時でも通常の鑑賞料金が1000円くらいのところ、博物館なので200円で観ることができた。皆、月末に次の月のその日のその時間のチケット=10回分とかを窓口でまとめて買い、200円なので行けなかったらしょうがない、人気作品は早々に売り切れていてたどり着けなかった人の枠にそれ以上に人が列を作って席を求め、当日券は400円。夢のようでしょ!?日本映画だと小津安二郎や成瀬巳喜男、衣笠貞之助、ドイツ映画だとハンス・リヒターや、ロシア映画も割と観てきたんです。もちろんトーキー以降の作品も、黒澤明の全作品を1ヶ月間かけたりし、趣味は映画博物館、みたいな学生時代でした」



■息子の大爆笑に「無声映画は子どもが観るべき」

 森本さんが無声映画上映会を旧グッゲンハイム邸(以降、グ邸)で企画するきっかけになったのは、息子と、神戸映画資料館で行われた初年度のクラッシックコメディ映画祭を鑑賞したときの思わぬ反応だった。

「当時5歳の息子を膝に乗せて鑑賞していたら、息子がいち早く反応して笑うと、周りの観客もそれにつられて笑いが起こり、ドッカン、ドッカン笑いが起こったんです。上映後、神戸映画資料館の田中さんと、無声映画は子どもが見るべきだと意見が一致し、鳥飼さんも誘って、子どもや大人、おじいちゃん、おばあちゃんもおひとりさまも大歓迎と銘打って、コメディ映画の専門家、いいをじゅんこさんのトーク、鳥飼さんの伴奏付きでサイレントコメデイ上映会をやりました。その後も2ヶ月ごとに開催したこともあったほど」

 森本さんが用意してきたスライドをスクリーンに映し出しながら、時には実験映画や、純然たるコメディ映画だけではなく、そこにプラスアルファ要素のある作品をセレクトし、上映してきた様子を楽しいトークで振り返る。子どもの観客を集めることは難しいのではという問いにも、息子の友人たちに声をかければあっという間に10人ぐらい集まり、子どもたちが「キートンはなぁ、ローレル&ハーディーはなぁ」と無声映画時代のスターたちの名前を話題にするそうで、「塩屋の子どもたちはバスター・キートンをフルネームで言えるんです。他のサイレント上映とグ邸のサイレント上映はちょっと雰囲気が違います。前に座っている子どもたちの反応は気にしていますし、大人たちはスクリーンと子どもたちの反応を一緒に楽しむ空間になっていますね」(鳥飼さん)



■空き地を使って「シオヤシネマパラダイス」

 そして塩屋の空き地のような市民公園でインスタレーションなどをしながら、真正面にある家の壁が白く、窓がないことから「スクリーンにしかみえない!」と森本さんが企画したのが「シオヤシネマパラダイス」。A3サイズのポスターを1週間だけ掲示し、人が来すぎないように、口コミのみで広げる方法で集客。家の2階壁に無声映画を投影し、弁士の大森くみこさんの活弁と楽士の鳥飼りょうさんによる伴奏に加え、森本さんも塩屋楽団として一緒に演奏したという。80〜100人というちょうど程よい人数が集まり、夏の日の思い出になったという。1分半の活弁の脚本を自ら作り、発表する子ども活弁ワークショップも2回目はコロナで中止になったが、今後も引き続き行う予定と語ってくれた。


 森本さんが画期的なイベントとして紹介したのは、昨年開催した1920年代の日本のアニメーション「のろまな爺」大上映会。4分30秒の切り絵アニメーションに10パターンの演奏をつけるという新しい試み。鳥飼さんと大森さんの黄金コンビに加え、電子音楽などさまざまな音楽をつけたという。最後は全員で大演奏も行ったというから、さぞや楽しかったのではと想像が膨らむ。


「音によって映像が変わる印象を受けるかという、壮大な実験でした」(鳥飼)

林さんからは、

「関西では、サイレント映画が熱いし増えていると思うが、グ邸のサイレント映画上映会は理想形ですね」と賞賛の声が寄せられた。



■元町映画館の「SILENT FILM LIVE」

 鳥飼さんが拠点として活動しているプラネットプラスワン(中崎町)の富岡さんによる「エジソンの映画史」を神戸アートビレッジセンターに続き、元町映画館で開催することがきっかけで、2回目からは富岡さんの解説なしの、鳥飼さんによるピアノ伴奏付き無声映画上映が誕生。同館もピアノを購入し、「SILENT FILM LIVE」をコンスタントに続けてきた。

鳥飼さんは、

「プラネットでは多い時には週2回ぐらい、初期の短編から、長いものでは3時間ぐらいの大作まで弾いて来たので、だいぶん鍛えられました。基本的には富岡さんがセレクトするのですが、僕が他の劇場さんと共催でやらせていただく時には、極力その劇場の色に寄り添えるように考えています。元町映画館は他のミニシアターに比べてセレクトの幅が広いんです。サイレントも実験映画からラブロマンスもあるので、色々なジャンル、かつ関西であまり観られていないような作品を混ぜながら選んでいます」




■サイレント時代の劇場を目指して。1週間ぶち抜きの「SILENT FILM LIVE」短編/長編ウィーク

 感染予防のため2階が使用禁止中のため、2021年に入ってから休止中だった「SILENT FILM LIVE」が、8月28日/9月18日より1週間連続上映で復活。


「毎日同じ無声映画を上映するというのは、かつて劇場で行われていたものなので、イベントではあるけれど、あまりイベント色を強く出したくないんです。もちろん楽士が演奏するわけですからプラスアルファの楽しみはありますが、1日限定なのでめがけて来てね!というのではなく、他の映画を選ぶのと同じようなラインナップの一つになるように、(スケジュールを)組んでもらえるのがいいなと、ず〜〜〜っと考えていて、ようやく叶いました」と鳥飼さん。以前は土日と週末に限定されていたが、今回は1階を使用、1週間単位で編成する方がやりやすいのでと打診したところ快諾してくれたと林さん。


 色々な切り口や興味を持ってもらえる面を増やしたいという鳥飼さんの狙いから、日替わり上映で合計14プログラムと映画祭並みのラインナップ。しかもジャンルも多彩なのだ。

鳥飼さんは、

「映画館をもっと面白くというところに戻ると、一つの形にはなるのかなと思います。人が発声するイベントがコロナ禍で若干やりにくくなっても、伴奏付き上映はそこの心配がありません。それでも劇場に行かないと味わえないプラスアルファ感やライブ感があります。これからの一つの流れになれば」と意欲を見せた。



■元町映画館でライブもやっていた!

 書籍には取り入れられなかったと責任編集の江口が悔やしがったのは、元町映画館でかつてライブも行っていたという話題になったとき。


「レイトショー枠で終わった後の30分ほど演奏があったり、音楽関係の映画の後にミニライブをしたり。フランスやイギリスの音楽家たちを呼んで結構豪華なことをやってましたよね」と森本さん。


「5周年のジプシー映画特集の時、三田村管打団?で演奏をし、後ろでビールが振舞われたんですよ。映画と音楽と酒、今はどれもアカンと言われていますが」とジプシー楽団のように練り歩いたり舞台の端に座って楽しんだ演奏を振り返った。



■小学校の活弁公演にみる可能性と元町映画館への期待

 鳥飼さんが用意してくれたのは、小学校の芸術鑑賞会で、活弁公演をしたときのダイジェスト映像。キートンのドタバタを大森さんの活弁と鳥飼さんの演奏で楽しむ上映会は、子どもたちが大騒ぎ。


「このテンションで70分ぐらい観続けてくれる。サイレント映画や長編は子どもには無理と言われますが、対象が小学2年生でもすごく盛り上がります。幼稚園でやったときは、もう応援上映状態です」


さらに鳥飼さんはテレビの規制が厳しいことで、サイレント映画のドタバタ劇をより新鮮に感じられると語る。

「我々が子どもの時に見た、タライが落ちて来たりするようなドリフ的な笑いを今の子どもたちは知らないので、サイレントコメディ映画を観たときの衝撃度が半端ないのだと思います」


最後にお二人から元町映画館に対する希望を伺った。

「他のシアターと違って1スクリーンしかないので、どの作品をかけようかと一番苦労されていると思いますが、コロナ禍でも来てくれるお客さまがいらっしゃるというのは、プログラム編成への信頼があるはず。コンセプトを持っていい作品を届ける。ミニシアターのあるべき姿だと思うし、それに磨きをかけ続けていただきたい。サイレント映画を上映させていただくとき、僕もこれならと思うものをセレクトするという責任を持って挑みたいと思います」(鳥飼)

「『デスノート Light up the NEW world』から日活映画、リドリー・スコットまで、元町周辺がロケ地の映画がたくさんあると思うので、そういうのを観てロケ地巡りをする。街の中でできる映画館の企画になるのではないかと思います。権利関係の問題はあると思いますが、予告編のようなもので後々観たいと思えるはずなので、なんとかできないかな」(森本)

 トーク後元町商店街でアーケードを眺めながら、かつては元町6丁目でアーケードからスクリーンを吊るし、上映会をしていたことを森本アリさんから聞き、空き地での上映会しかり、街で映画を観る試みの可能性を感じた1日だった。


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